「大将!このアツアツ感、うれひぃー(←ハフハフ中)。そして厨房から聞こえてくる、天ぷらを揚げる音に次が食欲そそるBGMになりますよね。チリチリ〜ッ、シュワシュワ〜って、高めの音がなんともキレイ!」
昼 11:00〜15:00
夜 17:00〜21:00(O.S. 20:30)
月曜(祝祭日の場合は翌火曜)
京町 | |
九州路 |
西鉄柳川駅から降り立って歩くこと10分。京町通りをぶらり歩いてみると、古くから続くお菓子屋や酒屋、まだまだ新顔さんの飲食店、暮らしに欠かせない銀行や郵便局などが並んでいる。川下りで眺めると柳川とはまた違う、人々の”日常”が見える商店街。その一角に、大将・江藤雅秀さんが営む天ぷら料理専門店「九州路(くすじ)」はある。由緒正しき店構え。それでいて「近所の人が付けてくれたとです〜」と奥様が喜ぶクリスマスのイルミネーション(取材時)に、地元民からの愛されっぷりがにじみ出る。
取材/絶メシ調査隊 ライター/西村里美
冒頭の写真は「九州路」自慢の『天ぷら盛り合わせ(1,210円)』。塗りのお皿に敷紙を引いて、えび×2、白身、魚介、豚肉、ささみ、野菜(この日は玉ねぎ、ナス、いんげん、大葉など)。これにご飯、赤だし、お新香がつけば『天ぷら定食(1,560円)』が完成。「九州路」の看板メニューを張ることになる。
が、大将の江藤さんにたずねてみると、普段は天ぷらが一枚の皿の上に全員集合することは皆無らしい。なぜなぜ、どうして?
「とにかく揚げたての天ぷらを食べてほしいとですよ。だから、2〜3回ぐらいに分けて、カウンターのお客さんには、ハイどうぞと揚げたてをお皿の上に差し出します」
撮影中も「今日の白身魚は、長崎で捕れた“ヤスミ”ですよ」「メゴチって魚も人気ですよ」「冬やけん、牡蠣も入れときました」と大将からレクチャーが。なるほど厨房とカウンターが「一対一」の勝負感。ライブ感もあるし、ランチタイムから何たる贅沢!
立派な屋久杉のカウンターに座れば、マンツーマンの天ぷらフェスティバル!うひょー!!
テーブルや小上がりのお客さんのためには、奥さんの夏美さんが銀色の大きなバットを抱えてフル回転。「揚げたてをバットに移して、私が配膳させてもらいますよ。忙しくって間違えること?ほとんどないですねえー」大将も「万が一、間違えたってお客さんが教えてくれるけんですねえ」常連さんとの仲の深さも垣間見られて、ほっこりしてしまう。
満席になってもニコニコと天ぷらを正しく配置していく奥様。すごい脳トレになっているに違いない。
美しい油の中を泳ぐ、天ぷらたち。鍋の真上にカメラをかまえたカメラマンは「熱い!」同じ位置にいるのに大将は涼しい顔。
「大将!このアツアツ感、うれひぃー(←ハフハフ中)。そして厨房から聞こえてくる、天ぷらを揚げる音に次が食欲そそるBGMになりますよね。チリチリ〜ッ、シュワシュワ〜って、高めの音がなんともキレイ!」
「そうですよ。この音をよ〜く聞いていれば、今、油が何度くらいなのか、だいたい分かりますね。天ぷらはとにかく温度が大切です」
「ジュワ~ッ!じゃなくて、チリチリ〜ッ! ここに『九州路』のおいしさのヒミツがありそう。しかしこの天ぷらの衣、薄すぎず、厚すぎず、カリカリ過ぎず、ボテッともしていない。剥がれることなく、でもちゃんと天つゆを吸い込んでくれる。ボリューム感がなんともいいあんばいです!」
「うちは天ぷら屋じゃなくて、天ぷら定食屋だからね。ご飯にと一緒に食べておいしいバランスってどんなやろかねって、昔から考えとりました」
高級感あふれる割烹テイストの空間ながら、どおりでご飯がススムわけだ!おかわり自由!わいわい!
天ぷらをいただくちょっと前に運ばれてきた、ご飯・赤だし・お新香の定食トリオ。ひと目みただけで「うまいに決まっとろうもん!」と言い放てるオーラがぷんぷん。ご飯は、磨かれたようにつやぴか。大将、やっぱり、んまい!!
輝く米と、それを引き締める赤だし。この日は奥さんの実家の葉大根のお漬物(普段は高菜です!)
「そうですか〜、よかった、よかった」
「(ヒソヒソ声で)大将はね、いっちょん自慢したがらん人で(笑)。実は、天ぷら以外のあれこれにもこだわりがあるんですよ。お米も農家さんをまわって、おいしいのを探したみたいです」
「やっぱり!あんなに輝くご飯、久しぶりに見ましたもん!教えてくれてありがとうございます。私、定食のご飯がおいしいと『大当たり!』と喜ぶタイプなんで、ほんとうれしいです」
「実は、調味料もひとつひとつ地元産や柳川近隣のものを中心に、ここのを使うって言って選んでいるんですよ」
「大根葉のお漬物にちょろっとかかっていた、お醤油までおいしいですもんね。そしてお茶も香り高くて、おかわりせずにはいられません」
天ぷらを取り囲む、ご飯、赤だし、お新香、お茶…。すべての脇役にぬかりにぬかりなし!だから、主役の天ぷらがよりいっそう引き立つ! このストーリー、今後は、柳川・天ぷら名作劇場と呼んで、広めていきたい。
個人的に釘付けになったのが、限りなくミニマムなお豆腐が入った赤だし。とぅるとぅると滑らかに喉を走り抜ける。天ぷらの食感と真逆だからバランスがいいし、赤だしのスッキリ感で「あ、天ぷらもう1個食べたい」という気になってしまう。
赤だしに入れる、極小サイコロサイズの豆腐。大将曰く「誰でも切れるよ(笑)」いえいえ、私、自信ありません。
天つゆは、あらかじめ大根おろしがインされたタイプ。大根たっぷりサービス満点。
天つゆの大根おろしの多さにあらためて感動していると、奥様が「ごはんと大根おろしはおかわり自由。だから、天ぷらが来る前に大根おろしでごはんを1杯食べて、両方おかわり!って、お椀を差し出す方もいますよ」なんたるツワモノ。そういう食いしん坊に私はなりたい。
すでに食いしん坊。お座敷に移動して、2クール目の「天ぷら定食」まだまだイケるよ!
「九州路」がオープンしたのは昭和39年のこと。筑豊育ちの大将のお父さん(先代・治さん)が、柳川の雰囲気をたいそう気に入り、脱サラまでして「九州路」をつくった。54年前、26才のことだった。
「柳川は今ほど観光地ではなかったけれど、北原白秋の生家などは全国的に知られていて。九州を旅行するみなさんが柳川に来た時、立ち寄れる店にしたいと思って『九州路』と名付けました」と先代。
天ぷら屋の専門店にしたのは「すでにうなぎ屋さんはたくさんあったから、なんばしようかー?と考えて、天ぷらやったらうなぎと同じ位みなさんに喜ばれるやろうと思って決めたんです」柳川に接する有明海〜長崎方面でとれる魚も具材にできるので、なるほど郷土色もちゃんと出る。先代、『九州路』の天ぷらは、うなぎと並ぶ商店街の名物になりましたね!
笑顔がやさしい先代。近所の専門学校に通う、アルバイトの学生さんたちとも仲良し。
創業から四半世紀、先代が50歳を迎えた時、現大将が店を継いだ。「息子は大阪で修行してから柳川に帰ってきたとですけどね。一緒に1〜2年働いた後、もう大丈夫やろうときっぱりとまかせることにしたんですよ」
先代が佐賀で仕入れた屋久杉一枚板のカウンター。月1度はタワシで磨かれ、年輪のヒダの肌触りが心地いい。
「先代は今も、お店に出勤していらっしゃるとお聞きしました。総監督的なお立場でいらっしゃるんですか?」
「いいえ、父は『皿洗い』ば、しよります。いろいろ手伝ってくれるとですよ。継いだ後は口出しもせんで、母と一緒に我々を応援してくれています」
「………なんと、できたお方。………言葉が何も出てきません!!!!」
店を好きになる理由に「おいしい」が根底にあるのはもちろんだ。でも、その上に、店を営むみなさんのお人柄や心遣いが重なりあった時、ずっと通いたくなる店になる。絶やしたくない店になる。
「常連さんは、柳川だけじゃなくて、九州各地にいっぱいいらっしゃるんです。親子4代で来られている方もいて、うれしい限りですよ」と先代。「九州路」が老舗になった“路”を、ほんの少しではあろうが理解できたような気がした。
酒の香りが効いた、しみしみのおでんも人気者。夜はこれをつまみに1杯。
ここに大奥様も加勢して、家族でランチと夜営業を切り盛り中。みなさんずっとお元気で!
『九州路』から御花などがある沖ノ端エリアまで、お堀端に整備された「水辺の散歩道」を歩いて30〜40分。いろいろ食べ歩きしたい人には最高の腹ごなし散歩ができる。
絶メシ店によっては、日によって営業時間が前後したり、定休日以外もお休みしたりすることもございます。
そんな時でも温かく見守っていただき、また別の機会に足をお運びいただけますと幸いです。