No.11 地域 稲荷町
店名 加藤商店

家族愛でつなぐ
“柳川だんご”のバトンリレー

加藤商店の初代・加藤春代さんと息子の正也さん。のれんの「串」の字と「ご」の「“」の部分はよく見るとだんごになっている。これは春代さんのアイデア

風情あふれる柳川名物のお堀。その景色を描いたパッケージの下には、あんこでお餅を包んだ、なんとも素朴なおやつがずらりと並んでいます。名前もストレートに「柳川だんご」。この飾らない感じがいいです。地元っ子ではない私も、なんだか故郷に帰ってきたような気持ちになります。
いつまでも残って欲しいなんて思いながら、「柳川だんご」を作り続けて約30年の「加藤商店」へ向かうと、出迎えてくださったのは、加藤商店の加藤春代さんと息子の正也さん…、立派な後継ぎがいらっしゃる。しかも、親子仲良く、かつハイスピードでおだんごを作っておられました。

取材/絶メシ調査隊 ライター/大内理加

地元のおやつから柳川名物へ
店主は“絶メシ的”救世主!?

お堀で愛されてきたあんこたっぷりの“おだんご”は、大人も子どもも大好きなおやつです。昔は柳川周辺でたくさん作られていたそうですが、後継者不足で廃業されたお店が多くあるとか。「加藤商店」の前身でもある「むとう商店」にもお店を畳む話が持ち上がりました。そこで“待った”をかけたのが加藤春代さんです。故郷の柳川を離れて遠く横浜市で家庭を築いていた春代さんが、お店を継ぐ覚悟と共に帰郷したのが約30年前のこと。
手を挙げた理由は至極シンプルでした。「大好きなおだんごを柳川名物にしたい」その思いを糧にひた走る春代さんとご主人の背中を見ながら、息子の正也さんは育ったのです。

ライター大内

このおだんごは昔から地元で作られていたんですね。

加藤春代さん
(以下、春代さん)

そうですね。私もむとう商店のだんごは子どもの頃からよう食べよったし、柳川から出ても帰ってきたら必ず食べてましたもんね。この味が恋しくてね。

ライター大内

それでお店を継ごうと思われたんですか?

春代さん

そうです。むとう商店さんは私の親戚でね、ご家族も知っとたしバイトもしよったとですよ。戻ってからは半年くらい修業させてもらって継ぎました。

ライター大内

ご主人やご家族は反対されなかったんですか?

春代さん

全然です。話を聞いたらすぐに決めて家族で戻りました。

ライター大内

決断が早いのもおだんごへの愛ゆえですね。継いだ後にとまどいなどはなかったんですか?

春代さん

無かったですね。私はね、このだんごを『赤福』みたいにしたいと思ったんですよ。

ライター大内

赤福って伊勢土産のお餅ですよね。つまり柳川の名物にしたいと?

春代さん

そうそう。私が継いでから、名前も「柳川だんご」に変えたんです。
包装紙も有名な画家さんにお願いして。柳川と言ったら川下りやから。

春代さんの情熱が詰まった「柳川だんご」は「柳川さげもんめぐり」や「沖端水天宮大祭」などのイベントで1日に1万本を売り上げるほどに。実は、春代さんご自身が“絶メシ”を救われていたとは驚きです。
今や柳川に欠かせない存在となった「柳川だんご」のバトンを受け継ぐ正也さん。プレッシャーなどは無かったのでしょうか?

ライター大内

息子の正也さんはどうして2代目になろうと思われたんですか?

加藤正也さん
(以下、正也さん)

僕が就職して1、2年目くらいの時に、親父から「もうしきらん」て相談されて。

春代さん

当時はここで酒屋もやっていましたし、手が足りなくて大変だったんですよ。
だんごの仕込みも、うちは米を粉にするところからやってるからですね。大量のお米を買って、全部洗って、きれいに干して。今は無洗米があるけど、当時はなかったからね。この子達も小さい時から手伝ってくれよったですよ。

正也さん

15kgくらいのお米を洗って干して、2階に運べ〜ち言われてね。ヒイヒイ言いながら運んで。水天宮さんのお祭りの時は出店を出すんですけど、売り場まで担いで運びました。大変やったですね。

餅米を粉にした後、杵と臼で餅にする。この機械は今では販売されていないそう。修理しながら大事に使う“家族”の一員だ

ライター大内

若い力は頼りになりますよね。継ぐというのは最初から決めていらっしゃったんですか?

正也さん

正直、働いていた会社も楽しかったので、迷っていないと言えば嘘になるんです。でも子どもの時は将来の夢に「お店の跡を継ぐ」っち書いとったけんですね。

春代さん

兄弟全員書いとったね。

正也さん

僕は末っ子なんですけど、上の兄二人は起業しているので自分が継ごうかなと。

ライター大内

それだけお手伝いをされていたのなら、2代目としてもうまくやっていけそうですね。

正也さん

いやいや、やってみたら全然イメージが変わりました。継ぐ前は“親が作ってるだんご”というイメージでしたけど、実際働いてみると買ってくれる人がこんなにいてくれるんだなと。今は商業施設でも売らせてもらっとるんですけど、それもお客さんからいただいた話ですもんね。本当にありがたい!“お客様様”ですね。

加藤商店の建物は、築150年以上の醤油蔵だったもの。外壁は城下町の歴史を感じさせる“なまこ壁”。「先輩からは、『この建物があるけん、よかとぞ』と、よく言われます」と正也さん。地域の財産としても親しまれている。

黒あん派も白あん派も納得!
ひと串にだんご愛と情熱を込めて

取材にお応えいただきながらも、お二人の手元は止まることなく餅を取り分けてはあんこで包んでおられます。シャッターを切るのも追いつかないくらい早く、流れるような動きに思わず見入ってしまいます。

ライター大内

毎朝そんな大量に作っていらっしゃるんですか?

正也さん

前の日にある程度仕込んでおくんですよ。朝はスーパーに納めに行くので集中して作れないこともあって。あと、僕が朝弱くて…。開店前は両親に任せています。9時にお店を開けて、卸売り分を持っていく。それから次の日の仕込みですね。あんこを作ったり、お米を粉にしたりとか。

ライター大内

う〜ん、お忙しいですね。
おだんごのお餅は、お正月に食べる餅とは違うんですね。

春代さん

あれは餅米でしょう。こちらはうるち米を使っています。福岡県産米を粉にして、お餅にしているんですよ。

ライター大内

粉から自社で作ってらっしゃるんですね!手間がかかっておられます。

「柳川だんご」は一口大よりも大きめ。食べごたえ十分だが、甘さが上品なので意外にペロリといける

春代さん

団子は固くなるのが早いけん、何度も研究して、今はやっとやわらかさが1日は続くようになりました。おかげでスーパーでも卸売りもできるようになったんです。

ライター大内

なるほど。いろんな工夫が詰まっているんですね。
それにお二人ともすごく簡単そうに作っていらっしゃいますけど、お餅を同じ大きさに取り分けて、丸める作業って技術が必要ですよね。

正也さん

僕も12年作っているんですけど、最初の頃は餅すら触れなかったですよ。ビヨーンって手に張り付いて。これね、水を付けるとベチョベチョになるから、あんこを薄く取って付けておくんです。

春代さん

お餅の柔らかさもその日の気温とか天気をみて調整するんですよ。今は寒いから柔らか目にしています。水の量を調整してね。この土地の水を使うと柔らかくなるって聞いたら試したりして、始めて何年かは本当に悩まされましたね。

ライター大内

シンプルなだけに奥深いですね。確かに、弾力を感じながらも柔らかくて、お腹にしっかりとたまります。噛みしめると、ほのかに甘いのもホッとする感じ。

作っている様子を見たら、いてもたってもいられずパクリ。もはや餅ではなく幸せを噛みしめる表情だが、柳川だんごを食べた人は大抵こうなる(はず)

ライター大内

お餅を包むあんこは、「こしあん」なんですね!黒あんに比べて少し色が淡いですね。

正也さん

そうなんです。
黒あんに少し白あんを混ぜているんですよ。

春代さん

よそは黒あんだけのところが多いんですけど、白あんを入れた方がより甘くておいしいでしょう?

ライター大内

私、いつもは白あん派なんですけど、こちらのあんもすごくおいしい!
甘さが優しい気がします。黒あん派も白あん派も納得ですね。

串に刺しているのが「柳川だんご」

春代さん

このあんこでおはぎも作りよるんですよ。

ライター大内

おはぎってつぶあんが多いですけど、こしあんだとしっかりお米と馴染みますね。口当たりもなめらかで上品な感じ。おだんごにするかおはぎにするか迷いどころだなあ。
あんもこちらで作っていらっしゃるんですか?

正也さん

そうですね。小豆はお店で挽いてもらって、味付けはうちでしています。

ライター大内

これだけ美味しいと売ってくれと言われません?

正也さん

そこは父がこだわってて。

春代さん

よう同業者の人が買いに来られましたけど、どうやって餅を練っているか、あんこを味付けているか、よう聞かれよったですよ。

正也さん

そこは企業秘密なんです。

おはぎは中の餅米のむっちり具合を出すのが難しく、春代さんしか作れないそう。

ライター大内

ここまでてまひまかけていらっしゃるのに、柳川だんごの価格は税込みで1本90円。おはぎも1個100円って、ものすごくお手ごろですね。こちらが心配になっちゃいますよ。

正也さん

もういいかげん上げようち言ってますけどね。

春代さん

全然変わってないですよ。30年前に85円から5円値上げしただけです。

正也さん

ポイント券も付いてますからね。団子を10本で1点、10点貯められたら団子5本サービスです。
僕がポイントカードを作ろうち言うたら、母がこっちでよかって。

ライター大内

ベルマークみたいで貯めるの楽しそうですね。

春代さん

マメなお客さんはちゃんと袋に貯めて、持ってこられる方もいますよ。

ライター大内

こういうところも愛される秘訣なんですね。

ポイント券は好評で、熱心なファンの楽しみにもなっている。
一枚一枚全て手作り!

ぶつかった数だけ進化する
仲良くケンカする職人家族のこの先…

春にはさげもんが所狭しと下げられ、だんごを買うと店内でお茶のサービスも。

昔からの味を守りつつ、酒屋からだんご一本に切り替えたり、ポイント制を導入したりと、先を読みながら柔軟に対応されている「加藤商店」さん。
お互いに真剣に考えるからこそ、ぶつかることもあるようです。

ライター大内

お母様は息子さんが継がれると聞いた時、どう思われました?

春代さん

やっぱり嬉しかったですね。小さい時からこの子が一番手伝ってくれていたからですね。

ライター大内

正也さんもやっぱりおだんごがお好きなんですね。

正也さん

というか、子どもの頃から「親孝行ばせろ」ち言われよったけんですね。昔はお酒も置いていたので、大晦日は年が明ける直前までお店を開けてたんですね。寒い中、朝から晩までお店を開けてね。しかも当時は年中無休ですからね。すごいなと思って。だけん、親の味方になってやらんと、と思って手伝ってましたね。今じゃ、僕と母がバチバチにぶつかることもありますけど(笑)

この日はお父様が不在だったが、「さげもんシーズン」に誰よりも張り切るのはお父様と嬉しそうに話す表情がそっくり

ライター大内

こんなに息ぴったりなのに、ケンカするんですか!?

正也さん

そういう訳でもないんですよ。僕はもっとたくさんの人に団子を届けたいので、機械を入れる方向性も含めて話し合っているんですけど、やっぱり母は手作りにこだわっているんで、なかなか首を縦にふってくれんとですよ。

春代さん

私は機械が好きじゃないんです。生地の感覚とか、やっぱり自分の手だからこそ分かる部分があるんですよ。頑張っていきたいち気持ちはわかるけど、やっぱりこっちは職人だからね。

正也さん

団子についてはお互いに考えがあるけんですね。「あんたが完全に継いだら好きにしてよか」っち言われてますけど、いつになるやらですね。

春代さん

朝が弱かならいつまでもだめやね(笑)

ライター大内

あはは。でも、今は正也さんがいらっしゃいますけど、その先については考えていらっしゃるんですか?

正也さん

う〜ん、いろいろありますが、家族で続けていきたいなと。ケンカはあっても仲良くやっていけますもんね。僕の次の代もいずれ考えないけんですけど、一緒にやってくれる人がおればですね。

春代さん

家族みんなで一緒に働いていると、張り合いがありますもんね。

ライター大内

ご夫婦の背中を見ていらっしゃるから、尚更そう思いますよね。
では、花嫁募集中って書いちゃっていいですか?

正也さん

あはは。いいですよ。

元気でマイペースな店主が次々と登場する“絶メシ”取材ですが、後継者不足の話題になるとやはり切ない気持ちになることも多いんです。そんな中で、惚れ込んだ味をどうしても守りたいと頑張り続ける加藤さん親子の姿は、ひとすじの希望のような気がしました。
それに、時にはぶつかっても、やっぱりつながっているんですよね。手に取った時のずしりとしたひと串の重み、そこから優しく広がる懐かしさの正体は、加藤さんご一家のだんご愛と家族の絆によるものなんじゃないかと思います。
まさに絶メシ界の希望の星!これからもおいしいおだんごを作り続けて、見せていただきたいものです。

No.11 No.11
地域: 稲荷町
店名: 加藤商店
ジャンル: 和菓子
お問合わせ:
0944-72-2954
営業時間:
9:00〜18:00
定休日:
水曜日
住所: 福岡県柳川市稲荷町138-1
アクセス方法: 西鉄柳川駅より車で11分

絶メシ店をご利用の皆さまへ

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